小さいときから野球に親しみ、スキルだって超がつくほど一流。
3Aや2Aを含めれば、日本のプロ野球の何倍も選手層は厚く、その中から選び抜かれた、いわば野球のエリート中のエリートです。
こうした連中を相手に、あの筋量の乏しいI選手が、走・攻・守のすべてで大リーグのトップと言えるほどのパフォーマンスを見せていることは、本当にとてつもなくすごいことなのです。
21世紀的な考え方でいえば、打球の速さはバットスイングの速さに比例します。
そのためには、いかに腕を速く動かすかが課題となる。
自分の骨を速く動かさなければならない。
より強い筋肉をたくさんつけて、総体としての筋量を多くしていく。
このことが求められたのです。
でも、こうした条件が必要不可欠なものならば、I選手の打球が速いということはありえません。
では、なぜI選手の打球は、他の筋量のある選手をしのぐのでしょうか。
その秘密は主に3つあります。
ひとつはバランス。
バランスを取るためには、車輪の軸やコマの軸のように中心になる芯が必要です。
I選手を見ると、このバランスを取るための芯が非常にしっかりしています。
また、バランスがいいI選手の身体から出るエネルギーには無駄がありません。
2つ目は、全身の細かい筋肉を総動員できるということ。
人間の身体は、約17の骨と約17の筋肉からできています。
I選手の場合、この細かい筋肉をすべて使って力とスピードを加算していくのです。
一方、筋骨隆々なのに打球が遅いという選手は、その加算が上手にできていません。
手や脚などの一部の筋肉だけを使って、体幹部などにあるたくさんのパーツを使えていないのです。
I選手に比べると、参加しなかったパーツから生まれるエネルギー分を無駄にしているというわけです。
3つ目は、身体の中にブレーキをかける成分がないことです。
筋肉には、力を出すアクセルの役割と同時に、ブレーキの要素もあることをご存じですか? I選手以外の多くの選手は、アクセルの働きをする筋肉もたくさんありますが、ブレーキになる筋肉も多く持っています。
したがって、バットを振るときも、走るときも、ボールを投げるときも、アクセル筋とともにブレーキ筋も一緒に使ってしまうのです。
I選手は身体の中にあるブレーキをかけてしまう筋肉を上手に排除しています。
身体中の骨 、筋肉に上るすべてのパーツをバラバラにゆるめて分散し、すべてのパーツ聞の筋収縮力を一気に加算することで強大なスイングスピドを生み出すI選手。
多くの大リーガーにも真似のできない至芸だ。
こうした分敵加算という高度芯身体運動も、身体を天地に貫く一線であるセンターがあればこそ可能となる。
センターと分散加算は、あの宮本武蔵が極意書の中で書き遺そうと努めた武術の奥義でもある。
ツ科学者が選手にトレーニング処方をしてほしいと言われると、とにかくそのスポーツで役立ちそうな筋肉をつけるメニューを作り、ひたすら筋肉を鍛えさせてきました。
さらに、全身持久力を高めるための走り込みや、エアロバイクを漕がせるということに時間を費やしたのです。
そんなトレーニングでは、I選手を見れば一目瞭然のように、本当の身体の機能を高めることはできません。
量の時代だった20世紀に別れを告げて、21世紀は質の時代、クオリティの時代となってきたのです。
さて、質的な能力が問われる21世紀に入ったいま、どうしたらI選手のような能力が身につくかを考えていかなければなりません。
これまで見てきたとおり、I選手のように小さい身体の資源で、ハイパフォーマンスを発揮するということは、コスト的に考えると非常に優れているといえるでしょう。
体格を分母にして、その結果であるパフォーマンスを割った数字、パフォーマンスウエイトレシオと言いますが、I選手の場合、ものすごい数字になるはずです。
仮にI選手の打球が時速17キロだとすると、巨漢バッターのウエイトで換算すれば、ゆうに時速17キロ以上に相当することになるのですから。
このように、クオリティの高い身体とはつまり、「効率のいい身体」と言い換えることができるのです。
では、効率のいい身体には、どういうメリットがあるのでしょう。
身体資源が量としてハイパフォーマンスが発揮できる。
すぐにおわかりのことと思います。
皆さんが効率のいい身体を手に入れたとき、まず一番に感じるのは、そのすばらしい快適さだと思います。
目の前にAとBの2台の自転車があると思ってください。
Aはメンテナンスもパッチリで、漕ぎ出した瞬間から、シャーッと気持ちよく走ります。
Bはサビサビのボロボロ。
ライトの発電機もタイヤに当たったまま戻らなくなってペダルを漕ぐたびにギシギシと嫌な音がする重い自転車です。
このAとBの2台の自転車で、2m先の駅まで向かうとしたらどうでしょう。
Aに乗った人は、滑らかな走りでとても快適です。
皆さんも経験があるとおり、こうした快適な自転車に乗ればストレスだって解消します。
ちょっとした下り坂があると、大人だって、声にこそ出さないにせよ、内心では思わず「ヒヤッホー」と叫んでしまうことでしょう。
一方、Bに乗るとどうでしょう。
ペダルを1回漕ぐのもひと苦労。
重いし、嫌な音はする、ストレスがどんどん溜まっていきます。
さらに右からも左からも、きちんと整備された自転車にスイスイと抜かれていったとしたらどうでしょう。
なんとなく肩身が狭く、ちょっと隠れたいような思いにもとらわれるのではないでしょうか。
この自転車の例と同じようなことが、じつは身体でも起きているのです。
効率がいい身体つまり、クオリティの高い身体からは、まさに万全に整備されたAの自転車と同じ感覚が得られるのです。
筋量が多くても、ボロポロの自転車のような身体の場合もある。
逆に筋量が少主よくても、身体のクオリティが高ければ、万全に整備された自転車と同じ感覚が得られる。
一方、クオリティが低い身体というのは、たとえ筋肉をモリモリに鍛えた身体であったとしても、まさにBのようなボロボロ自転車と同じ。
ただ歩くだけでも、一歩ごとにストレスが溜まっていくわけです。
自転車のように音が出ないだけで、身体の中ではギシギシ、きしギーコガーコと軌み合っているのです。
ただ、身体は自転車と違って、簡単に乗り換えることができません。
自転車だと、Bのボロボロ自転車に乗っている人でも、友達から借りればすぐにAのような自転車の快適さを体験できるし、反対にBの不快さを体験することも可能です。
自分の身体というのは、それなりにかなり長い年月をかけていまの状態になってきたわけで、一日一日の変化というのはわずかなものでしかありません。
自転車のように比較検証ができない身体は、たとえBのようにボロボロ、サピサピになっていたとしても、なかなか感じにくいのです。
おそらく大半の読者の皆さんの身体は、I選手と比べると、まさにBの自転車と同じ状態になっているはずです。
また、日常的にスポーツやトレーニングを行っているという方でも、17%以上はBタイプの身体だといえます。
なぜなら、I選手に比べれば、あの大リーガーたちだってBタイプの身体なのですから。
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